いまや5人に1人の高齢者が認知症になるといわれています。
その時、家族やまわりの人間はどのような対応を取り、認知症の人と接していけばよいのでしょうか?
認知症の4つの種類と原因、関わる家族や人の対応策、接し方についてまとめます。
目次
認知症の症状とは
認知症を発症するとまず、体験したことを忘れてしまう(記憶障害)、日付や場所が認知できない(見当識障害)などの認知機能障害がおこります。
認知機能の障害にともなって、不安や鬱状態、幻覚や妄想、徘徊などがあらわれてきます。
不安や鬱状態、物を取られる妄想などは、認知症発症初期段階からあらわれやすく、幻覚や徘徊は認知症が少し進行してからあらわれてきます。
次にトイレや、着替え、入浴、食事などの日常生活の動作が一人でできなくなる日常生活動作の障害があらわれます。
そして認知症の症状が重篤化すると、歩行困難、うまく食べ物が飲み込めない嚥下障害(えんげしょうがい)などが起こり、運動機能が低下して寝たきりになってしまう危険もあります。
認知症の4つの原因と種類
認知症の原因となる病気には、主に4つがあげられます。
1.アルツハイマー病
日本の認知症の原因の70%を占めるのがアルツハイマー病です。
アルツハイマー病の患者さんの脳内は、神経細胞の周りにアミロイドβたんぱくという物質が大量にたまっていることがあります。
そのため、アルツハイマー病の原因はこの物質の蓄積なのではないかとも考えられています。
アミロイドβたんぱくは加齢とともに少しずつ脳内に蓄積しはじめます。
そして10年から20年かけて神経細胞が障害されることで脳が萎縮してしまいます。
アルツハイマー病は70歳代での発症が多いことから、アミロイドβたんぱくが蓄積し始めるのは50歳代と考えられています。
そのため、予防は50歳を過ぎたあたりからすることが重要なのです。
脳の萎縮は、記憶に関与する海馬やその付近からはじまり、だんだんと脳全体へと広がっていきます。
そのためはじめに記憶障害があらわれます。
2.脳血管障害
脳血管障害は認知症の20%ほどを占める原因です。
脳の血管が詰まる「脳梗塞」、脳の血管が破れて出血する「脳出血」などの脳血管障害が発生して、脳の神経細胞が一部壊死してしまうことで、認知症を発症します。
一度の脳梗塞や脳出血で認知症を起こすこともありますが、大抵の場合は小さな脳梗塞などが何度も繰り返し起こり、手足の麻痺やろれつが回らないといった症状を伴いながら発症していきます。
3.レビー小体型
脳の神経細胞内にたんぱく質の塊である「レビー小体」があらわれて徐々に神経細胞が障害されて認知症を発症します。
特徴としては、幻視や注意力がなくなるなどの認知機能障害、動作が遅くなる運動障害などがあります。
若年性の認知症として発症することもあります。
4.前頭側頭型
前頭側頭型認知症は、脳の前頭葉や側頭葉が萎縮していくことで起こります。
前頭葉は本人の意思を言語化したり、理性的な行動をとるという行為に深く関与しています。
そして側頭葉は言葉や物の意味を理解する上で重要な働きをしています。
同じ言葉や行動を繰り返したり、常識はずれな行動をとるなどの特徴が見られます。
認知症全体からみる割合は少ないものですが、60歳半ばまでに発症する若年性認知症の中では大きな割合を占めています。
色々な原因が考えられていますが、TDP-43というたんぱくが脳に蓄積することが一部の前頭側頭型認知症で起こることが明らかになっています。
以上のような認知症のほとんどが完治は困難であるといわれています。
しかし、慢性硬膜下血腫や脳腫瘍、正常圧水頭症などの病気が原因で認知症が起きている場合は、治療によって認知症が完治することがあります。
認知症の人との接し方とは
認知症の人と接する際に最も気を付けなければいけないのは、「不安を与えない」ということです。
普段から、認知症の人が安心感を感じられるような対応をこころがけましょう。
認知症の人に安心感を与える4つのポイント
1.ゆっくりと話す
ゆっくりと話しかけることで、認知症の人は落ち着いて話を聞くことができるうえに、内容を理解しやすくなります。
笑顔で、身振り、手振りを交えるとより安心してもらうことができます。
2.簡潔に話す
認知症になると、一度に複数のことを考えることが困難になってきます。
例えば玉ねぎを切って炒めましょう、という場合、玉ねぎを「切る」と「炒める」という動作がありますね。
こういう場合には、まず「玉ねぎを切りましょう」と話し、切る作業を終えてから「玉ねぎを炒めましょう」と話すことで、認知症の人も落ち着いて行動をすることができます。
3.先回りはさりげなく
何段階も手順のある作業は、認知症の人は次にすることが何なのかわからなくなり、自信を失ったり、不安を感じてしまいます。
さりげない先回りで次の動作を確認してあげることで、認知症の人も安心することができます。
例えば、玉ねぎを切って混乱していたら、「次は炒めるんだよね?」などとさりげなく言ってあげるようにしましょう。
4.出来ないことを指摘しない
出来ないことを指摘するのは、相手の自信を奪うことになります。
自信を奪うことは認知症の悪化にもつながります。
失敗しても目をつむり、出来たことを大げさなくらいに強調して褒めることが肝心です。
どんなに小さなことでも「ありがとう」と感謝の言葉を伝えることも自身へとつながります。
物が取られた!という妄想の対応
「物とられ妄想」とは、認知症の軽度から中度で見られる被害妄想のひとつです。
多くの場合、お財布や通帳などの大切な物を取られたと訴えたりします。
これは記憶障害のために、大切な物をしまい、そのしまったこと自体を忘れ、その不安から取られたとか盗まれたと思い込むことによって起こります。
身近な人間を疑うケースが多いようです。
この場合の対応は、一緒に探してあげるのがベストです。
しばらく一緒に探すことに付きあって、お茶にしたり、外出を促すなどして他の事に意識をそらせることがポイントになります。
物とられ妄想は繰り返しあらわれるものですが、落ち着いて対応していれば次第におさまっていきます。
自信喪失、鬱、引きこもりの対応
認知症も中度になると、日常生活で自分で出来ないことも増えていきます。
そのため自信を失ったり、鬱状態になり引きこもりがちになってしまいます。
この場合の対応は、認知症の人本人が前向きになるまで見守ってあげることが大切です。
美しい花を見に散歩へと誘うのも効果的ですが、家族よりもデイサービスなどの他人が誘った方が効果的だともいわれています。
環境の変化が前向きになるきっかけを作ることもあります。
徘徊の対応
家の中、外を歩き回る徘徊は認知症の人にとって見れば、買い物や仕事にでるつもり、というように何等かの理由があるものです。
ちなみに外の徘徊は、今いるところが自分の居場所ではない、などと落ち着くことができないためです。
家の中が安心できる場所、と思うようになれば外への徘徊は減っていきます。
認知症になったからといって、何もさせないのではなく、簡単な家事を役割分担するのも効果的です。
また、アルツハイマー病による認知症と前頭側頭型認知症では、徘徊のタイプが違います。
アルツハイマー病による認知症は、家が安心だと思えば徘徊が減ることがありますが、前頭側頭型認知症の場合は毎日決まったコースを徘徊することもあります。
これを無理にやめさせようとしても効果はないので、徘徊に付き合ってあげた方が望ましいでしょう。
徘徊での一番の問題は行方不明になることです。
衣服には、住所や名前、電話番号を書いた布を縫い付けておき、近所の人には徘徊する可能性があることを伝えておきましょう。
外で一人で歩いているのを見かけたら、連絡してもらうように頼んでおくようにしましょう。
認知症の人が安心できる環境を作ろう
認知症の人との接し方については、悩む人は多いと思います。
しかも自分の親や近親者であれば、尚、戸惑ってしまうこともあるでしょう。
大切なのは、認知症を正しく理解して適切な対応を知っておくことです。
周囲の人間と協力し合いながら、認知症の人が安心できる環境づくりをしていきましょう。
また親の認知症に自分ひとりで向き合って疲れてしまう人も少なくはありません。
自分だけでしょいこまず、介護サービスなどの支援を受けながら、認知症の人本人も家族も安心して暮らせる環境を目指していきましょう。